世界的に実績のない「黒色感光性レジスト」開発

生活必需品とも言えるスマートフォンやノートパソコンなどの電子機器には必ず使用されている「プリント配線板」。この「プリント配線板」の回路を保護しているのが、私たちの主力製品である「感光性ソルダーレジスト(SR)」です。これまでは緑色や青色が主流でしたが、あるお客様からいただいたご要望は「黒色の感光性SR(黒色レジスト)」。いまや世界中に愛用者がいるスマートフォンの新製品に搭載されています。しかし黒色レジストは世界的にも実績がなく、短期間では実現不可能とさえ言われてきた製品。それも残された期間は1年のみ。この短期間で製品化を実現するために、私たちのチャレンジが始まりました。

最先端の特許技術を活かし、壁を乗り越えた

主流の緑から黒に、単に色を変えるだけのことでも、そこには乗り越えなければならない、いくつかの課題がありました。

 

まずは“色と光の相性”。感光性SRを用いた回路パターン形成は“フォトリソグラフィ”という写真現像技術を応用します。基板に感光剤(SR)を塗布し、紫外線を部分的にあて、紫外線をあてない部分を現像することによりSRが絶縁膜となります。SRが緑色であれば問題はありませんが、黒色は光を吸収してしまい、紫外線が下まで通らずSRが特性上求められる硬度に固まらなくなります。さらにもう1つの課題は、“酸素がある空気中では感光しないこと”。ネガフィルムを使い、従来の接触露光機を使えば、 酸素のない真空状態で感光させることが可能ですが、今回お客様ではデジタル露光処理により酸素のある空気中で微細なパターンを精度よく大量に生産のすることが必須条件となっていたのです。

 

何度も試行錯誤を重ねて、手応えを感じられるようになったのは、少ない光量で硬化する性能を備えた原料が完成したときでした。従来黒SRで一般的だった1000(mJ/cm2)という光量基準を100(mJ/cm2)まで抑えられることができ、これには取引先も驚愕しました。この高性能の原料が生まれたことと、着色顔料に黒色を使わなかったことなど将来、この技術が必要になってくると考え、いち早く原料メーカーと共同で開発していたのです。これらの黒色SRの開発で培われたノウハウは特許技術として確立され、高品質な黒色SRが世界中で私たちでしか造れない理由でもあります。

新たな価値や商品を創り出すために

企画から1年後に製品化が実現し、国内生産拠点で造られた黒色SRを搭載したスマートフォンを多くの人々が手にするようになりました。その後は同メーカーのタブレット端末 や携帯音楽プレイヤーなどにも搭載され、順調に生産も拡大。さらには海外の市場にも、私たちの黒色SRは広く採用されるようになりました。 私たちはこれからも、新しい製品や価値を創り出すために、一歩先を見据えた技術革新に挑戦していきます。

植田 千穂

太陽インキ製造株式会社
パッケージマテリアル部 パッケージ材料開発課

入社以来、一貫して材料開発のエンジニアとして活躍。これまでにリジット基板用、フレキシブル基板用など、さまざまなソルダーレジストに携わってきた。今回紹介したプロジェクトは6年前に担当。2015年現在はICパッケージ基板用ドライフィルム型SRの開発に取り組んでいる。

※掲載内容は2015年12月取材当時のものです。